従業員のモチベーションや定着率の向上に欠かせない「エンゲージメント」。多くの企業が関心を持ちながらも、「具体的に何をすればいいのか分からない」と悩んでいる担当者は少なくありません。本記事では、実際にエンゲージメント向上に成功した企業5社の取り組みと、その効果を徹底的に解説します。事例を通して、自社に応用できるヒントや施策のポイントを見つけていただければ幸いです。
従業員エンゲージメントとは?注目される背景と定義

エンゲージメントという言葉は最近よく耳にしますが、実は単なる満足度やロイヤルティとは全く違う概念なんです。何が違うのか、詳しく見ていきましょう。
従業員エンゲージメントとは、従業員が会社やチームの目標に共感し、自ら主体的に貢献しようとする心理的な状態を指します。単なる満足度やロイヤルティと異なり、「自ら動こうとする積極的な姿勢」に着目する点が特徴です。近年では、企業の生産性やイノベーション創出力に大きく影響することが明らかになり、多くの企業が注目しています。特に、離職率の上昇や若手人材の早期退職が経営課題となる中、エンゲージメント向上は人材戦略の中心になりつつあります。
従業員エンゲージメントの基本定義

従来の「満足度」とエンゲージメントの違いを理解することが、施策を考える上でとても重要ですね。
従業員エンゲージメントは、「働きがい」や「会社との一体感」とも言い換えられます。一般的には、会社のビジョンや価値観に共感し、チームや上司との信頼関係の中で、自身の能力を発揮して働ける状態を意味します。
満足度 | 会社に対する受動的な感情 |
ロイヤルティ | 会社に対する忠誠心 |
エンゲージメント | 自ら主体的に貢献しようとする積極的な姿勢 |
エンゲージメントが高い従業員は、自ら課題を見つけて行動する傾向が強く、結果的に業績向上にもつながります。
なぜ今エンゲージメントが注目されるのか

働き方が多様化する中で、従来の一律的なマネジメントでは限界が見えてきています。特にZ世代の価値観の変化は見過ごせませんね。
背景には、働き方の多様化やZ世代の台頭、リモートワークの定着などがあります。従来の一律的なマネジメントでは、従業員の本音や課題が見えづらくなっており、早期離職やモチベーション低下を引き起こしています。
こうした課題を防ぐために、エンゲージメントという「見えにくい感情」を可視化・改善し、組織を活性化させる必要性が高まっています。
従業員エンゲージメントがもたらす3つのメリット

エンゲージメント向上の効果を具体的に知ることで、施策の優先度も決めやすくなりますね。
エンゲージメントの向上は、単に従業員が「満足している状態」ではなく、企業と従業員がともに成長し合う土壌を整えることに他なりません。ここでは、企業が得られる具体的なメリットを3つ紹介します。
離職率の低下と定着率の向上
エンゲージメントが高い従業員は、自社に対する信頼や期待を持っており、ちょっとした不満で辞めることは少なくなります。
- 早期離職の減少
- 採用コストの削減
- 教育投資の回収率向上
- 組織のノウハウ蓄積
結果として早期離職が減り、採用・教育にかかるコスト削減にもつながります。
生産性と業績の向上
主体的に動く従業員は、与えられた仕事だけでなく、自ら課題を見つけて改善提案を行うようになります。
従来の働き方 | エンゲージメント向上後 |
---|---|
指示待ち | 自発的な行動 |
受動的な業務遂行 | 積極的な改善提案 |
最低限の成果 | 期待を上回る成果 |
このような姿勢がチーム全体の活性化を促し、結果的に売上や成果にも大きく寄与します。
組織文化の活性化と従業員の成長
エンゲージメントが高い職場では、上司と部下の関係がフラットで、意見が言いやすい風土が育まれます。これが心理的安全性を生み、従業員の挑戦や学びを促進することで、持続可能な成長へとつながります。
実在企業の成功事例5選|具体的な施策と効果

具体的な事例を見ることで、自社でも応用できるヒントが見つかるはずです。各社の工夫に注目してみてください。
実際にエンゲージメント向上に成功した企業は、どのような取り組みをしているのでしょうか。ここでは実在する5社の事例を紹介し、それぞれの工夫と成果を解説します。
スターバックス:フィードバック文化と社内表彰制度

従業員を「パートナー」と呼ぶ文化は、従業員を対等な存在として尊重する姿勢の表れですね。
スターバックスは「パートナー」と呼ぶ従業員一人ひとりを尊重し、フィードバックと承認の文化を重視しています。
- 日常的なコミュニケーション文化の醸成
- 成果を称える表彰制度の運用
- 従業員を「パートナー」と呼ぶ文化の浸透
- 定期的なフィードバック機会の提供
これにより、スタッフの定着率が高く、顧客満足度の向上にもつながっています。
ユーザベース:パーパス経営と自律的な組織運営
ユーザベースでは「自由と責任」の文化のもと、パーパス(存在意義)を共有することで組織を一体化させています。個々が裁量を持って働く環境を整えることで、エンゲージメントは自然と高まります。
従来の組織 | ユーザベースの組織 |
トップダウン | 自律的な意思決定 |
管理・監督 | 自由と責任 |
業務遂行 | パーパス共有 |
従業員が主体的に意思決定できる仕組みが、離職率の低下と成果創出を実現しています。
LIXIL:社内サーベイと対話重視のマネジメント

パルスサーベイは課題の早期発見に非常に有効です。定期的な対話の仕組みづくりが重要ですね。
LIXILは、従業員の声を吸い上げる「パルスサーベイ」を導入し、課題の早期発見に取り組んでいます。
- パルスサーベイによる定期的な意識調査
- チーム単位での結果共有
- 1on1ミーティングでの対話活性化
- 管理職のマネジメント力強化
サーベイ結果はチームごとに共有され、1on1ミーティングでの対話が活性化し、管理職のマネジメント力も同時に強化され、離職率改善と組織の信頼醸成が進んでいます。
小松製作所:スキル可視化とキャリア支援制度
小松製作所では、従業員のスキルを見える化する評価システムを整備しています。
従来の評価 | スキル可視化システム |
曖昧な評価基準 | 明確なスキル指標 |
一律の研修 | 個別最適化された育成 |
成長実感の欠如 | 可視化された成長プロセス |
その結果に応じて研修やキャリア支援を提供することで、「成長している実感」を与え、自己成長が実感できる職場環境が、従業員のロイヤルティを高め、継続的な人材育成につながっています。
みんなのマネージャ:AI活用と属人化しないマネジメント体制

AIを活用して属人化を防ぐアプローチは、管理職の経験値に関係なく効果的なマネジメントができそうですね。
「みんなのマネージャ」は、エンゲージメントサーベイにAIを活用し、従業員の心理状態に応じて質問内容や頻度を最適化します。
- AI による質問内容の最適化
- 属人化しないマネジメント体制
- フィードバック内容の自動提案
- 店長ごとの対応バラつき抑制
また、フィードバック内容の提案まで行うため、属人化せず、店長ごとの対応のバラつきも抑えられます。結果として、退職率67%改善、昇格者の定着率向上など、具体的な成果が出ています。
まとめ

エンゲージメント向上は一朝一夕にはいきませんが、まずは現状把握から始めることが重要です。
従業員エンゲージメントの向上は、もはや一部の先進企業だけの取り組みではなく、企業成長を支える必須施策となりつつあります。スターバックスやユーザベースのような企業は、日常的なコミュニケーションや自由な働き方を通じて成果を上げており、「みんなのマネージャ」のようなツールの活用もその一助となります。今後の人材戦略として、まずは自社の課題を可視化することから始めてみてはいかがでしょうか。
組織人事コンサルタント
早稲田大学政治経済学部卒
国家資格キャリアコンサルタント・産業カウンセラー
企業の離職防止や定着率改善を専門とし、制度設計にとどまらず、社員一人ひとりの「内発的動機づけ」に着目した支援を信条とする。
データ分析と現場ヒアリングを軸に、経営層・マネージャー双方への支援を提供。現場感と理論を兼ね備えた落ち着きある語り口と、信頼感ある立ち振る舞いが特徴。
私生活では筋トレや読書を通じて自己研鑽を重ねる一方、家族との時間も大切にしている。
組織人事コンサルタント(ジュニアアソシエイト)
上智大学 総合人間科学部卒
IT系広告代理店での営業経験を経て、現在は人事領域の実務を現場で学びながら、キャリアコンサルタント資格の取得を目指している。
ヒアリング力と素直な吸収力に定評があり、1on1設計やフィードバック支援などに携わるほか、離職防止ツールの導入プロジェクトでも活躍中。丁寧な対話と観察力を強みに、実務を通じて成長を重ねている若手コンサルタント。
趣味は朝活と読書。日々の気づきを記録する習慣を大切にしながら、仕事と生活のバランスを大事にしている。